北区区長が音頭を取って、保存と継承のため演者の育成にも力を入れています。
北区各所にある農村歌舞伎舞台を持ち回りにして上演会を催し、4年サイクルで巡っています。
ですから、ここ箕谷駅近くにある下谷上農村歌舞伎舞台で演じられるのは4年振りで、私はその4年前に初めてここで観劇しました。
今回随行して頂いたのは、2年前に藍那に出来た新しい農村歌舞伎舞台で一緒に観たアリマさんと、農村歌舞伎を観るのは初めての六子さんです。
六子さんと私が12時前に歌舞伎上演会場に到着し、
少し遅れてアリマさんも到着。
最前列で席を確保して食事を済ませたが、まだ時間があるので、私が近くのコンビニに走って缶ビールとポテチを買って来ました。
開演までに頂いて、やっと落ち着きました^^)
開演は午後1時で、終演は3時40分の予定でしたが、終わったのは4時20分。
ビールを飲み終わった頃、MCさんが登場して、
農村歌舞伎の説明です。
外人さんも観劇するという事で、流暢な英語も交えて。
保存会理事長さんによるご挨拶です。
次に神戸市北区区長さんのご挨拶と御願い。
農村歌舞伎を保存する為には後継者を育てなければならないので「農村歌舞伎体験教室に是非参加して下さい」とのことでした。
その教室へ観に来たつもりが、演者になってしまったという例もあるそうです。
頂いた説明書きには、
初級編には上演会見学を兼ねたハイキングを用意していて、中級編は上演会出演を目指した教室だそうです(どちらも有料)。
問合せ先:北区まちづくり推進課 農村歌舞伎担当 078-593-1111(代)
次第
一「絵本太功記」(神戸すずらん歌舞伎)
二「農村歌舞伎や舞台に関する講演」(竹内隆)
三「白浪五人男」(神戸すずらん歌舞伎・体験教室受講生・はことら座共同出演)
四「寿 勧進帳」(箱登羅たから歌舞伎)
の以上です。
最初の演目「絵本太功記」ですが、歴史上の人物をシリアスなパロディーにしたようなお話です。
主君織田信長を討った光秀が、秀吉や清正に滅ぼされるまでのことを題材にして描いている狂言です。
明智光秀→武智光秀 羽柴秀吉→真柴久吉 加藤清正→佐藤正清と言う風に元の雰囲気を残して役名を作っています。
光秀の母が皐月で妻が操、光秀の息子が十次郎でその嫁が初菊です。
13日間のお話を十三段で描いています。
演ずるのはその十段目で、「尼ケ崎庵室の場」。
光秀の母皐月の隠れ家を舞台にしています。
頂いたパンフレットから要約してみましたが、これで大体の状況は分かるでしょうか。
年老いた皐月を見舞いに操と初菊がやってくる。
そこへ出陣の願いに十次郎も来て、初菊にそのことを告げる場面です。
元の顔が分からないほどに厚化粧しているで、顔にぼかしは入れないことにします。
十次郎が出陣の姿で現れるが、早変りは出来ないので準備していた別人です。
右から、十次郎にとっては祖母の皐月、十次郎、母の操、左端が十次郎にとっては妻になる初菊です。
よ~く見ると、この中で一番若いはずの初菊さんが最高齢のようです^^)
この配役も笑いを誘う所です。
実はまだ婚約者という設定で、ここで祝言と出陣の盃を同時に挙げてしまうという場面です。
勝ち目の無い戦いに出てしまった十次郎を想い、よよと泣き崩れる二人。
話は飛んで、久吉が身を隠しているとの情報を得た光秀が母の隠れ家とも知らずにやって来る。
竹槍で突き刺したのは、久吉ではなく母の皐月であった。
驚くが、後の祭り。
更に、討たれた十次郎が命からがら舞い戻ってくる。
父光秀に味方の敗戦を伝えて絶命します。
このあと回り舞台で場面が変わる。
この回り舞台があるのも農村歌舞伎では非常に珍しい事だそうです。
ここで描かれる光秀は正に悪役で、実の母を射しておいて仕方が無いと言う振る舞いです。
ここから電車で15分ほどの有馬温泉は太閤秀吉が愛でたという事で味方の秀吉、光秀はその敵方なので憎いやからということでしょうか。
(秀吉をモチーフにしている)久吉と光秀の顔の作りにそのことが現れています。
荒々しい形相の光秀と、善人といういでたちの久吉です。
こんな所で討ち取るのは光秀が哀れとの久吉の温情から、天王山での再開を約束して別れる。
ここで幕引き。
次は講演と言うことですが、幕間の準備時間があるのでお話をすると言う段取りです。
そのお話をするのは、神戸鈴蘭歌舞伎代表の竹内隆さん。
このとき花道にある仕掛けを見せてくれました。
これが「どんでん返し」と言うことです。
ころっと情景が変わると言う事が転じ、物語が思わぬ方向に急展開する場面になったときに使われるようになりました。
次の演目は広く知られた「白浪五人男」です。
大体の内容はご存知かと思うので、登場する人物を紹介します。
トップは日本駄右衛門。
次にひけえしは、弁天小僧菊之助。
3番目はトチリの忠信利平。
セリフを間違ったり詰まったりして笑いを取っていました(これも演技?)。
紅一点は赤星十三朗。
ドンジリにひけえしは、南郷力丸。
この子が一番上手でした。
お父さんは外国人で、捕手を勤めていました。
最後は「寿 勧進帳」です。
書かれているあらすじをそのまま転記します。
「兄頼朝に追われる身となった義経が、山伏に姿を変え、北陸を抜けみちのく(東北)まで逃げようとする。
途中、関所で怪しまれ、あわや身の破滅というときに家来の弁慶の機知で窮地を脱することが出来た。」
その弁慶が関所で素性を説明している場面。
後ろには四天王。
勧進帳を読み上げるシーン。
後ろに義経の顔がチラッと見える。
長い台詞を流れるように言い終えて、見得を切るところ。
関所の富樫左衛門に疑われ、あわやと言う場面。
富樫左衛門との問答も見事でした。
窮地を脱し、舞を披露する。
酒を勧められるシーンではホントに呑めるのでは?と思ってしまいました。
横に座っている小さなお子さんは、幼稚園児にしか見えませんが。
こんなものでは足りぬと、桶に全てを注ぐ。
これを飲み干してしまうシーンで弁慶の豪快さを現していました。
酔った舞では、先ほどの舞との違いを見せ、観客を唸らせました。
花道を退場するシーンでも、拍手喝采。
演技を終えた後の弁慶さんは、
ほっとして、疲れきった表情です。
観客が帰ってしまった、客席の様子です。
この舞台右に演技を終えた役者さん達が立っていて、弁慶さんに「良かったよ」と言って握手をしました。
お褒めの言葉を皆さんから頂いて泣きそうな顔でしたが、その声は迫力のある弁慶ではなく優しい女の子でした。
いや~、役者になって欲しいと思いましたね。
座名「箱登羅たから歌舞伎」について、書かれている説明文を私なりに分かりやすく要約してみました。
近年に入り、この農村歌舞伎が下谷上農村歌舞伎舞台で始めて上演されたのは平成2年のことです。
中身は甲南大学歌舞伎文楽研究会学生達による素人歌舞伎でした。
その指導をしたのが三代目市川箱登羅先生です。
それがきっかけとなって続けられる事となり、地元の小学生達も「甲緑子たから歌舞伎」を座名にして指導を受けるようになりました。
今年はその箱登羅先生の三回忌になり、指導を受けた子供達が小学校を卒業後もこうして農村歌舞伎を残そうと努力しているのです。
三回忌と入れ替わるように、秋房流家元秋房愚楽師匠が来て指導に当たっています。
座名も、箱登羅先生の教えを宝物のように思っています、という気持ちを込めているそうです。
目頭が熱くなります。
この子達もゆくゆくは農村歌舞伎の指導に当たることになるかもしれません。
もともと農村歌舞伎は、農民の娯楽として始まり、設備や衣装も手作りで素人集団が自由に演じて笑いと涙を誘うものでした。
今で言うところのエンターテイメントです。
でも、これからは若い世代が受け継いでいかないといけません。
指導を受けた子供達は新しい感覚を持っていると思います。
今風アレンジの新作農村歌舞伎なども作ってみては如何でしょう、と・・。
これまた素人考えですが夢想しています。
最後まで読んで頂いてありがとう御座いました

この記事へのコメント
風子
各地の伝統文化を廃らせないようにと、そういった活動がどこの地域でも最近熱心に行われてもいるようですね
地域ぐるみでそういった文化を継承してゆくことは必要ですね
ところで、この舞台は屋外かな??
アルクノ
この農村歌舞伎を観劇したのは4年前からですが、それまでは私も知りませんでした。
設備費や衣装代は北区から出ているのだと思いますが、有料参加費もそれらに回るのかも。
兎に角、演者を育てないと廃れてしまいますからね。
私は演じる事ができないので、こうしてブログで公開して、一人でも演技の方に参加される方が増えることを願っています。
舞台そのものは茅葺屋根の下にありますが、観客席は何処も屋外になります。
雨天時は中止で、小雨の時は決行だと思います。
yoppy702
農村歌舞伎自体も素晴らしいと思いますが、何より、アルクノさんのレポートが素晴らしい。
この記事を読んだら、農村歌舞伎に興味が涌きますよ。
勧進帳(勿論知っているので…)、これだけのカットと説明だけで、引き込まれてしまいました。
初級編の上演会見学を兼ねたハイキングって、アルクノさん向きじゃないですか?
アルクノ
多くの方が農村歌舞伎に興味を持っていただいて、演技をしたり観劇したりで盛り上げていきたいですね。
この時のメインは勧進帳でしたが、主役の弁慶が見事でした。来年どうなるか分かりませんが何かの役でまた観れることを願っています。
初級編の上演会見学を兼ねたハイキング、内容を精査して検討してみます。
KURI
何だかねぇ、感動しちゃいましたよ!
あの弁慶を演じていたのが女の子だったとは。もう驚きです。たくさんたくさん練習を積んで来たのでしょうねぇ。こちらまでうるっときちゃいました。
アルクノ
この時は弁慶さんに感動させられましたね。
難しい言葉が並ぶ長いセリフを覚える記憶力も凄いですが、演技をする所作に心が入っているので魅入ってしまいました。
なのに、
素に戻ると、背は高いが可愛い女の子なのですから。
これからが楽しみです。
清兵衛
農村歌舞伎が継承されているんですか!
改めて、神戸の底力と懐の深さを見せていただきました。
やはり、住みたい都市ののNO.1ですね!
アルクノ
ここは北区で、大都市神戸の一部になっていますが神戸市9区の中では最も人口密度が低いのです。
六甲山系の北側に広がっていて、農業を営んでいる方も沢山います。
山林も多くて、面積は市全体の44%を占めています。
なので、都心より地価も低めに設定されています。
もし引越しされる場合は、是非北区へお越し下さい
色んなイベントも郷土色溢れるものとなっています。
この農村歌舞伎は北区が最も力を入れているものの一つです。
yokkosan
写真が多いのに軽くて、しかも拡大して見れるので読みやすくてありがたいです
アルクノ
分かりやすく簡略化して紹介しましたが、楽しんで頂けて嬉しく思います
今後の上演会も紹介したいと思っていますので、楽しみにしていて下さい